夏物語

2006年 韓
監督:チョ・グンシク
出演:イ・ビョンホン
スエ

韓国映画の素晴らしさは多彩。
四季の美しさが強調される映像
心に痛切に響く人物の感情移入。

人物の些細な表情や仕草がこんなにも心に響くのは、
何故なんだろうといつも思う。


時代に翻弄される二人、
それはあまりにも切なくて涙を流さずにはいられない。

奉仕活動として村にきたイ・ビョンホン演じるソウルの学生ソギョン。
何かやる気のない気だるさが前に出て余裕さえ感じられる若者。
だが心に生まれた愛への絆は深く根付く。
自然でユーモラスさえ漂わす魅力的な都会の学生。

村の図書館司書として働くスエ演じるジョンイン。
彼女もまた飾らない自然な美しさ際立つ。
その笑顔、仕草、口調全てを彩る彼女の要素が美しい。

二人は出会うべくして出会う。
自然と惹かれあう二人は暗黙の了解の如く愛を丁寧に育んでいく。

美しくロマンティックなシーンの数々。
大勢の村民が集まる中、活動写真を裏側で二人で観るシーンや、
ウインドウ越しに音楽を聴く二人。
これほど惹き付けられるシーンの数々が印象的だ。


更に心が痛むほどに印象深いのがやはりクライマックスのシーンだ。

二人で旅に出ようとする駅の雑踏。
これほどにない大きな包容力で包み、
明日への希望を静かに胸に秘め、
ジョンインを守る事だけを考えているとても大きな存在、
逞しくも思える存在を醸し出すスギョン。
私には、彼の中には何ら迷いは感じられなかった。
ただただ愛のために生きている、
二人のこれからの確かな愛だけを信じているとさえ思える。
優しい眼差しと真っ直ぐな眼差し。

だが一方、ジョンインの瞳には言いようのない深い悲しみが映されていた。
何か行動にださなければいけない、
勇気を出さなければけない、
また一方は試すという表現が妥当だか分からないが、
そういった感情が垣間見れる葛藤の色が深い。
心の中では想いは一つ、
愛するソギョンとともにいたい。
でも愛する人を愛することは一体どういう事なのかという自分への自問自答が込められている。
それが強調されているのが、
席を立ち、彼女のために薬を買ってくるというソギョンを引き止めるシーンだ。
ジョンインは張り裂けんばかりの深い悲しみと迷いで弱々しい心ながら強くソギョンの手を握り、遮る。
彼女は二度もソギョンを引き止める。
この手を離したら二度と・・・。
彼女の瞳を見ていられないほどの悲しみが深く深く伝わってくるのだ。
これほどにまで痛切な想い。

刹那の如く通り過ぎた夏の日。
愛は生まれ、かけがえのないものとなった。
こんなにも早く過ぎ去る時間が恨めしいと感じられるくらいに、
二人に愛が生まれるのに時間は要さなかった。


なのに引き裂かれた二人。

切ない。

でも離れていても二人の心はずっとずっと繋がっていたのだと感じた。
彼女が彼にした物語、
そして二人の時間の真実。
二人の全てを彩る真実の物語が二人の心の中には確実に在った。

心地よい朝靄の匂い
緑化した景色、
勢い良く降り注ぐ躍動感溢れる雨、
夏の美しい彩が切なくも美しい二人の愛をも彩る。








ネバーランド

2005年 英 米
監督:マーク・フォースター
出演:ジョニー・デップ
ケイト・ウィンスレット


 古の英国のその格調の高さを象徴するような緑豊かな風景や、
上品な家屋の様子、登場人物の立派で美しい衣装などが反映されている作品は、
観ていてとても気持ちが良いものだ。
この作品の舞台となっているのは1903年のロンドン。
かの有名なピーターパンの物語が誕生した。

子供のような心を持つ劇作家のジェームスは、ある日の公園にてデイヴィス一家に出会う。
4人の少年と美しき未亡人シルヴィア。
彼らと共に過ごす事でお互いにとても大切な存在となる。
だが4人の少年のうちの一人、ピーターは、父親の死によって心に傷を抱えていた。
大人になれば傷つかずにいられる、
そう思って彼は他の子供のように純粋に夢を見たり、何かを信じることが出来なくなっていた。


ピーターパンという物語がこういう経緯を経て生まれた、
という事実に基層を得てつくられた作品と言う事で、語られていくストーリー。
全体的に静かで柔らかい展開の中には、
主人公ジェームスをはじめとする、シルヴィア、子供達のキャラクターが自然に確実に現れてくる。

特にこの主人公ジェームスの配役には、
ジョニー・デップしか考えられないだろうと思わせるような適役ぶり。
特異な役柄が多い彼だからこそ表現できる、
人間味がにじみ出る、少しミステリアスな優しい役つくりが出来るのだと思う。


一方4人の息子の母親を演じたケイト・ウィンスレットは、
そのあたたかで美しい風貌、優しい口調、仕草から、母親としての大きな包容力が充分に現れていた。

ピーターパンのモデルになった少年が、
彼自身が思う本当のピーターパンを口にしたときには、
心がほっと温まるような感動を覚えた。

子供の心は大人が思っている以上に繊細で、傷つきやすい。
大人になるほど傷つく事が多いということもあるが、
実際子供の世界では、大人が考えもしない世界があって、
子供は子供なりにそれに刺激を受けたり、一喜一憂したりしているのだと思った

それこそが成長で、人間同士が及ぼす影響と言うのは大きいものだと思わせるような作品だった。