First


 完全たる洋楽派を貫いてきた私が、邦楽の魅力を再発見出来たのが、
宇多田ヒカルという才能溢れる女性シンガーを知った時であった。

当時聴いた彼女の声は私にとって、とても日本人離れした何もかも卓越している全てのパワーを感じた。
しかも彼女は当時16歳。
リリースされたアルバムは、ほとんど何の迷いもなく買ってしまうように、彼女のファンになっていた。
その個性的な素晴らしい声と彼女が作る彼女独自の楽曲の世界観はとても魅力的に感じたのだ。

 そして、シングル「travering」、「final distance」のPVに、私は圧倒されてしまう。
今までに見たことがない鮮やかで、斬新な映像にハッとした。
その映像の中の彼女は実に美しく、その楽曲は更に心に響いた。
 後にこのPVを撮ったのが、紀里谷和明氏だという事を、私は知る事になる。
その後に紀里谷氏の映像クリエイターとしての輝かしい数々の実績を知ったのだ。

 そして2002年夏、メディアの報道にて、紀里谷氏が、初監督作品を手がけるという事を知る。
『新造人間キャシャーン』の実写映画。竜の子プロダクションによって、
1970年代にテレビ放映されたアニメを実写化するという事だった。
 その頃、私は、キャシャーン?キャシャーンって何だろう?と思っていた。
その当時のリアルタイムはもちろん他の放映機会にもあった時代ではなかったためだった。

 だがこの時から、
まだ未見なるこのテレビ放映されたアニメ『新造人間キャシャーン』の紀里谷監督による実写映像化に、心躍らせていた。
宇多田ヒカルをはじめとした、有名アーティストのミュージックビデオを、
斬新で素晴らしい映像技術で表現している紀里谷氏の初の監督作品、それは何とも言えぬ期待に溢れていた。
 そして上映も間近となった頃の予告編のメディア配信。
たった数分の限られた時間で展開する予告編の放映は、実に鋭いインパクトと共に心に響いた。
その映像とサウンド、まだ見ぬ出演陣の劇中における切なさや葛藤までもが感じられる程の痛烈な表現力が伝わってきた。
そしてその後に発表された宇多田ヒカルによるテーマソング「誰かの願いが叶うころ」。
穏やかなピアノの旋律が静寂に豊かに響きわたるイントロ、
語りかけるような彼女のヴォーカルが切なく、優しく静寂を包み込み、
その歌詞からは、実写映像化された『CASSHERN』のテーマでもあるというべく、
人間から見る人間が望む愛の形、
その意味、
その、他への影響、
愛の、その裏にありえる犠牲とでも言うべき声を潜めているような存在がクローズアップされているように思える。
その美しいメロディが作品に見事に合ったテーマソングの予告編も、
これもまた実に印象深いものであった。
こうしてだんだんと自分の目の届くメディアにて紀里谷氏によって映像化された『CASSHERN』の姿が少しづつ表されていくに連れ、
早く作品をこの目で見たいという期待は高まっていったのだ。